風鈴の庭、外伝
今年の夏も記録的な暑さが続きました。そんな中、風鈴の庭が国境を越えた——そんなお話を少しだけ。
昨年の夏に作った風鈴棚を、今年もプラザ館前へと運び出しました。
伸びすぎた草を払い、ひとつひとつ風鈴を吊るしていくこと約二時間。
風が吹き抜けるたびに、リーン、リーンと涼やかな音が響き渡ります。
通りがかりの方が声をかけてくださり、私も作業の手を止めて、
その音色に耳を傾けてくださる姿を見て、ささやかな喜びを感じました。
風鈴の設置作業も終わりに差しかかった頃、
マンションの大規模修繕工事の警備員さんが、やわらかな口調で話しかけてきました。
「いい音ですね。私はブラジル人ですが、両親は日本人です。
この音、懐かしいです。お寺でよく耳にしました。
今の日本ではあまり聞こえませんが、本当に美しい音です。写真を撮ってもいいですか?」
その瞳はとても印象的で、どこか遠い故郷の記憶をたどるような、やさしい眼差しをしていました。
また別の方も、「今年も始まったんですね。風に乗って、音が届いてきましたよ」と声をかけてくださいました。
風鈴の音は、夏の訪れを告げるだけでなく、
言葉にはならない静かで深い情感を運んでくれるものだと、改めて実感しました。
『風鈴の音』は、時として国境を越え、人の心の奥にある記憶をそっと揺り動かすことができる、
そんな小さな「風景」を呼び起こす『装置』なのかもしれません。
決して長い歴史を持つわけではないマンション自治会ですが、
この地域に住む人々の心に残り続けるような、
ささやかな取り組みが誰かの胸に届いたのだとすれば、事務局としてこれに勝る喜びはありません。